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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)177号 判決 1999年3月25日

東京都中央区日本橋本町4丁目15番1号

原告

株式会社アイテック

代表者代表取締役

廣田隆一郎

訴訟代理人弁理士

三木晃

東京都目黒区碑文谷6丁目14番6号

被告

川喜田二郎

訴訟代理人弁護士

竹内澄夫

同訴訟復代理人弁理士

小田治親

訴訟代人弁護士

得丸大輔

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

特許庁が平成8年審判第4527号事件について平成10年4月21日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、「野外科学KJ法」の文字を左横書きしてなり、指定商品を商品の区分(平成3年9月25日政令第299号による改正前の商標法施行令による商品の区分。以下同じ)第26類「雑誌、新聞」(平成4年10月15日付手続補正前の指定商品は「印刷物(文房具類に属するものを除く。)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」である。)とする商標登録第2611464号商標(平成3年4月26日出願、平成5年12月24日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成8年4月1日、被告から、上記商標登録の無効の審判を請求され、平成8年審判第4527号事件として審理された結果、平成10年4月21日に「登録第2611464号商標の登録を無効とする。」との審決を受け、同年5月16日にその謄本の送達を受けた。

2  審決の理由

審決の理由は、別添審決書の理由の写しのとおりであって、要するに、本件商標と、「野外科学とKJ法」の文字を左横書きしてなり、第26類「新聞、雑誌」を指定商品として、平成5年5月31日に登録され、現に有効に存続する登録第2540396号商標(以下「引用商標」という。)とは、称呼及び外観において類似する商標と認められるものであり、また、本件商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品は同一のものであって、本件商標の登録は、商標法4条1項11号の規定に違反してされたものであるから、同法46条の規定により無効とすべきであるというものである。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由は、Ⅲ(判断)の部分を除いて認める。

審決は、次のとおり、その認定判断を誤り、又は理由不備があって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  本件商標と引用商標との対比についての認定判断の誤り

(イ) 本件商標「野外科学KJ法」は、「野外科学」と「KJ法」との間に「と」が存在しないので、「野外科学」、「KJ法」の2語を結合して1語としたものである。これに対して、引用商標「野外科学とKJ法」は、「野外科学」と「KJ法」との間に「と」が存在し、「と」によって「野外科学」「KJ法」という別個独立の二つの概念である「野外科学」、「KJ法」が前後に並べられているので、「野外科学」、「KJ法」の2語を結合したものとはいえない。並立助詞の「と」は、「及び」と同じように、対等の関係にある語と語とを結び付ける働きをし、同格のものを二つ以上並べるときに使われ、語と語とが「と」の前後に二つ並べられているときは、前後の二つの語は、別個独立の二つの概念を表すから、並立助詞「と」の有無によって、上記の差異をもたらすものである。

そうすると、引用商標に接する取引者、需要者は、単に「野外科学」、「KJ法」の2語を並列的に表記したものとして認識理解するのに対して、本件商標に接する取引者、需要者は、「野外科学KJ法」の1語を表記したものとして認識し、理解する。

また、引用商標に接する取引者、需要者は、「と」が存在することによって「野外科学」、「KJ法」という別個独立の2つの概念を認識するのであるから、並立助詞「と」の文字は、その前後に配された「野外科学」、「KJ法」と比較して、具有する印象ないし記銘力が弱いものではない。

以上のとおり、引用商標からは、「野外科学」、「KJ法」の二つの概念が把握され、また、本件商標からは、「野外科学KJ法」という一つの概念が把握され、「と」の記銘力が弱いといえない以上、本件商標は、引用商標と対比して、称呼において相紛れるおそれのある類似商標ではない。

(ロ) 称呼の類似は、称呼によって、聴覚を通じて商標を記憶し、商標の称呼を手掛かりに商品を購入する場合を想定するものであるから、どのように称呼されるかが問題になるところ、称呼によって商標を記憶する以上、称呼又は記憶しやすい形で、称呼されるのが通常である。そうすると、商標の持つ意味などを踏まえて称呼されることになる。これを引用商標及び本件商標に当てはめると、引用商標からは、「野外科学」と「KJ法」との別個独立の二つの概念が把握されるから、称呼において「ト」が強調され、「ヤガイカガク」と一気に称呼された後、若干のポーズをおいて「ト」と強調されて称呼され、その後に「ケージェーホウ」と一気に称呼されるのが通常である。これに対して、本件商標からは、「野外科学KJ法」との一つの概念が把握されるから、「ヤガイカガクケージェーホウ」と一気、一連に称呼される。したがって、本件商標は、「と」の存在によって称呼の仕方が全く異なるから、「ト」音の有無が称呼全体に及ぼす影響はきわめて大きいものである。

(ハ) 引用商標は、「と」の存在によって「野外科学」、「KJ法」という別個独立の二つの概念が認識され、一方、本件商標は、「と」の不存在によって「野外科学KJ法」という一つの概念が認識されるのであるから、中間における「と」の文字の有無が外観全体に及ぼす影響はきわめて大きいものであり、引用商標と本件商標との外観を対比した場合、非類似の印象を与えるものであり、時と所を異にして観察したときでも、取引者、需要者をして、本件商標から引用商標を連想し、又は、思い違えることもないのである。

(ニ) 以上によれば、本件商標と引用商標とは、称呼及び外観において非類似の商標と認められるから、称呼及び外観が類似するとした審決の認定判断は、誤っており、違法であるから、取り消されるべきである。

(2)  理由不備の違法

審決は、引用商標においては、接続詞である「と」の文字の具有する印象ないし記銘力は、その前後に配された文字と比較し弱いものといわざるを得ないと認定判断しているが、このような結論に至る理由が示されておらず、しかも、上記のとおり記銘力が弱く、この差異が称呼全体に及ぼす影響は小さいものというべきところ、両商標は、称呼上相紛れるおそれのある類似の商標といわざるを得ないと判断しているのであるから、上記理由不備は、審決の結論に影響があるものとして取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  請求の原因1及び2は認め、3は争う。審決の認定判断は、正当であって、取り消されるべき理由はない。

2  被告の主張

(1)  本件商標と引用商標との対比についての認定判断の誤りについて

(イ) 本件商標と引用商標のように7文字、8文字(発音にすれば12ないし13音)の長い称呼をもつ商標同士の称呼類似は、一般の想像以上に起こりやすい。両商標は、このように長い称呼の中でわずかに1音を異にするだけであるから、「野外科学」と「KJ法」との間に「と」があっても、「と」のないものとの間において紛らわしく聞こえることは明白である。

(ロ) 外観上の類比は、通常、商標の構成全体の有する外形的形象において判断されるが、引用商標における「と」の文字は、「野外科学」、「KJ法」の各造語の中に埋没してしまい、外観上は本件商標とほとんど同一となる。また、引用商標は、要部を「野外科学」、「KJ法」、「野外科学KJ法」のいずれとみても(「と」が要部となることはあり得ない。)、本件商標の要部と全く同一となり、両商標は、文句なしに外観類似となるのである。

(ハ) 本件商標と引用商標とは、「類似」と表現するには違和感を覚えるほど限りなく同一に近いものである。

(2)  理由不備の違法について

原告の理由不備の主張は争う。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(審決の理由)は当事者間に争いがない。

第2  審決を取り消すべき事由について判断する。

1  本件商標が、「野外科学KJ法」の文字を左横書きしてなり、指定商品を商品の区分第26類「雑誌、新聞」(平成4年10月15日付手続補正前の指定商品「印刷物(文房具類に属するものを除く。)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」)とする登録商標であること、引用商標が、「野外科学とKJ法」の文字を左横書きしてなり、指定商品を商品の区分第26類「新聞、雑誌」とする登録商標であることは、当事者間に争いがない。

2  原告は、審決の類否の認定判断の違法を主張するので検討する。

(1)  甲第4号証の1ないし5、甲第5号証及び乙第1号証によれば、「野外科学」とは、文化人類学者である被告(理学博士、東京工業大学名誉教授)によって提唱された学問研究の方法であり、また、「KJ法」も、被告によって提唱された問題解決方法の一つであることが認められるが、「野外科学」がどのような意味内容を有する「科学」なのか、「KJ法」がどのような意味内容を有する「法」であるかが、取引者又は需要者一般に知られているものと認めるに足りる証拠はない。しかしながら、「科学」及び「法」が普通に用いられる用語であるから、取引者又は需要者が「野外科学KJ法」に接した場合、「野外に関する科学」と「KJと称する法」とを結び付けた用語であると認識するものと認められる。

上記認定の事実によれば、「野外科学KJ法」は、上記のような二つの観念を生じる用語を結び付けたものと認識されるものと認められる。そして、引用商標「野外科学とKJ法」からは、「と」があることによってなお更、「野外に関する科学」と「KJと称する法」という二つの観念が生じる用語を結び付けたものと認識されるものと認められる。

この点について、原告は、本件商標「野外科学KJ法」は、「野外科学」と「KJ法」との間に「と」が存在しないので、「野外科学」、「KJ法」の2語を結合して1語としたものである旨主張するが、「野外科学」、「KJ法」の文字は、その間に「と」がなくとも、上記のとおりそれぞれ別個の観念が生じるものと認められるところであって、「野外科学KJ法」が1語であり、1語としての観念しか生じないということはできない。

(2)  次に、本件商標と引用商標とを称呼について対比するに、本件商標「野外科学KJ法」からは、一気に読む「ヤガイカガクケイジェイホウ」という称呼が生じるほか、「野外に関する科学」と「KJと称する法」の二つの用語を結び付けたものであると認識されるものであることに照らし、まず、「ヤガイカガク」の称呼が生じ、一旦切れて、「ケイジェイホウ」の称呼が生じるものと認められる。一方、引用商標「野外科学とKJ法」からは、一気に読む「ヤガイカガクトケイジェイホウ」という称呼が生じるほか、「と」があることによってなお更、「ヤガイカガク」の称呼が生じ、「と」で一旦切れて、次に、「ケイジェイホウ」の称呼が生じるものと認められる。そうすると、両者は、称呼においてきわめて紛らわしいものと認められる。

(3)  そうすると、本件商標と引用商標とは、観念及び称呼において紛らわしいものといわざるを得ない。

そして、両商標が指定商品に使用されて取引される場合を想定してみても、両商標の構成上、取引者又は需要者にとって、きわめて紛らわしいものであることが明らかである。

(4)  原告は、引用商標からは、「野外科学」、「KJ法」の二つの概念が把握され、また、本件商標からは、「野外科学KJ法」という一つの概念が把握され、「と」の記銘力が弱いといえない以上、本件商標は、引用商標と対比して、称呼において相紛れるわそれのある類似商標とはいえない旨主張するが、前記認定のとおり、本件商標「野外科学KJ法」からは二つの観念及び称呼が生じるものと認められるから、上記主張は、その前提を欠くものであって、採用の限りでない。

また、原告は、引用商標からは、「野外科学」と「KJ法」との別個独立の二つの概念が把握されるから、称呼において「ト」が強調され、「ヤガイカガク」と一気に称呼された後、若干のポーズをおいて「ト」と強調されて称呼され、その後に「ケージェーホウ」と一気に称呼されるのが通常であるとしたうえ、これに対して、本件商標からは、「野外科学KJ法」との一つの概念が把握されるから、「ヤガイカガクケージェーホウ」と一気、一連に称呼されるのに対し、本件商標は、「と」の存在によって称呼の仕方が全く異なるから、「ト」音の有無が称呼全体に及ぼす影響はきわめて大きいものである旨主張するが、本件商標「野外科学KJ法」からは、二つの観念及び称呼が生じることは前記認定のとおりであるから、上記主張は、その前提を欠くものであって、採用の限りでない。

3  原告は、審決は、引用商標においては、接続詞である「と」の文字の具有する印象ないし記銘力は、その前後に配された文字と比較し弱いものといわざるを得ないと認定判断しているが、このような結論に至る理由が示されておらず、しかも、上記のとおり記銘力が弱く、この差異が称呼全体に及ぼす影響は小さいものというべきであるところ、両商標は、称呼上相紛れるおそれのある類似の商標といわざるを得ないと判断しているのであるから、上記理由不備は、審決の結論に影響があるものとして取り消されるべきである旨主張する。

しかしながら、甲第1号証によれば、審決は、引用商標「野外科学とKJ法」の語句の意味を検討した上、引用商標においては、接続詞である「と」の文字の具有する印象ないし記銘力は、その前後に配された文字と比較し弱いものといわざるを得ないと理由を付していることは明らかであって、原告の理由不備の主張は、理由がない。

4  以上によれば、本件商標は、商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものであるとした審決の認定判断は、結論において正当であって、取り消すべき理由はない。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年2月23日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

本件は、「野外科学KJ法」の文字を左横書きしてなり、第26類「印刷物(文房具類に属するものを除く。)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を指定商品として、平成3年4月26日に登録出願され、その後、指定商品については、平成4年10月15日付け手続補正書をもって「雑誌、新聞」に補正され、平成5年12月24日に設定の登録がなされた登録第2611464号商標(以下「本件商標」という)に関する商標法第46条の規定に基づく商標登録の無効審判請求(以下「本件請求」という)である。

Ⅰ. 請求の理由等

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由の趣旨を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証~甲第12号証(枝番を含む)を提出している。

1. 本件商標は、平成2年8月1日に登録出願、

「野外科学とKJ法」の文字を左横書きしてなり、第26類「新聞、雑誌」を指定商品として、平成5年5月31日に登録され、現に有効に存続する登録第2540396号商標(以下「引用商標」という)と類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、さらに、本件商標は、同法第4条第1項第7号および同第15号に該当し、その商標登録は無効とされるべきである。

(1) 請求人が自ら所有する引用商標は、平成5年5月31日に登録され、現に有効に存続する(甲第3号証)。その態様は、甲第4号証として添付した商標公報から明らかなように漢字と英文字及び平仮名の組合せからなる「野外科学とKJ法」である。両商標の指定商品は、いずれも旧第26類「新聞、雑誌」であり全く同じである。両商標の態様は、ともに同種の漢字及び英文字であり、僅かに平仮名「と」の有無を異にするのみである。

両商標において共通である「KJ法」は、請求人である文化人類学者川喜田二郎(理学博士、東京工業大学名誉教授)が開発創案した問題解決方法の一つで、「発言内容をカード化し、類似点によって小グループに分け、さらに大きなグループにまとめあげていき、問題の全体像を浮き彫りにする方法」である。このことは、特許庁においても既に確認されているところである(甲第5号証)。この「KJ法」は解決すべき課題が複雑多岐にわたり、しかも量的にも膨大である現代社会において問題の本質を探究する方法として、学術の分野をはじめ多くの分野に普及している。さらにその方法をより発展させるために「KJ法学会」が組織され、研究成果の発表の場である学会も既に20回近く開催されている(甲第6号証)。

また、請求人自身、多くの著作を発表し、その成果を世に問うている。その一例をあげると次の通りである。

「KJ法-混沌をして語らしめる」-中央公論社発行

「KJ法実践叢書」-東京プレジデント社発行

「野性の復興」-祥伝社

「創造と伝統」-祥伝社

「川喜田二郎著作集、全13巻、別巻1巻」-中央公論社発行

これらの著作に対しては、多くの著名人から推薦の辞が寄せられている(甲第7号証)。

甲第7号証の1は「野性の復興」のカバーの写しであり、甲第7号証の2はそれの見返し部分に掲載された推薦文の写しである。甲第7号証の3は、「創造と伝統」のカバーの写しであり、甲第7号証の4はその見返し部分に掲載された推薦文の写しであり、甲第7号証の5は「創造と伝統」の販売に際して書籍に巻かれる帯の写しである。「KJ法」の名称は、請求人の自己の氏名「Kawakita Jiro」の頭文字をとり命名したものであり、1965年(昭和40年)に決定され、今日に至っている。「KJ法」は川喜田二郎がその普及に長年努め、さらに改良を重ねてきた結果、高い評価を得るに至ったものであり、このことは甲第7号証に示すように多くの著名な学者の推薦を得ていることからも明らかである。

したがって、この「KJ法」の文字を請求人と何等関係のない第三者が使用することは不穏当なものと考える。さらに、両商標における「野外科学」も請求人の創案にかかる語であることは、甲第8号証として添付した「創造と伝統」の第250頁の記述から明らかである。従来、真理を探究する学問においては先人の著した書籍から得られた知識の整理、分析を通して全体を体系化し、結論を導き出すとともに(書斎科学)、実験によりその実証を行なう方法がとられてきた(実験科学)。

しかしながら、かかる伝統的な方法に拘泥した場合、事物の本質を捕らえ切れない場合が生ずる。たとえば、対象を観察し、記録し、まとめあげるフィールドワークが欠如した場合、対象が混沌とし、多岐にわたっている文化人類学等の分野においては成り立たないことすら起こる。

そこで、請求人は伝統的な学問研究の方法に加え、問題解決の方法として野外での観察を通じてこれを科学的に分析していく方法である「野外科学」という考え方を提唱したのである。

以上のように、「KJ法」及び「野外科学」は文化人類学者としての川喜田二郎の長年にわたる研究の成果というべきものである。請求人は、自己の研究の成果である「KJ法」及び「野外科学」を、やさしく解説しその普及に努めるべく指定商品「新聞、雑誌」に商標「野外科学とKJ法」を出願し、その登録を受けたものである。

これに対し、被請求人の所有にかかる甲第2号証の引用商標「野外科学KJ法」は、「野外科学」及び「KJ法」が上記のように川喜田二郎の創案にかかる語であることから、これを偶然に商標として採択したとは考え難く、請求人の「野外科学」及び「KJ法」の存在を事前に知りつつ出願し、登録を受けたものと推測できる。

このような他人の長年の研究の成果を、その者の同意を得ることなく、何等の関係を有しない者が登録を受けることは穏当ではなく、商標法第4条第1項第7号に該当するものと考える(甲第5号証、第2頁)。

(2) 次に、上記の由来を有する両商標の商標法上における類否について述べる。

先ず、称呼について検討する。

甲第4号証の引用商標「野外科学とKJ法」の称呼は、一気、一連に称呼するには不適当な長さであることから、「ヤガイカガクト」と一気に称呼された後、若干のポーズをおいて「ケージェーホウ」と称呼される。

一方、本件商標「野外科学KJ法」も同様に一気、一連に称呼するには相応しないことから、「ヤガイカガク」と称呼された後、若干のポーズをおいて「ケージェーホウ」が続くものと考えられる。

このような冗長な称呼を有する商標にあっては、その中間における「ト」音の有無が称呼全体に及ぼす影響は僅かなものであることから、両商標は、その称呼において彼此混同を生ずる類似商標であると言うべきである。

次に両商標の外観について述べる。

両商標は、平仮名「と」を除いて他は全て同一といえる。既に説明したように「野外科学」と「KJ法」はともに請求人の造語にかかるものであり、これを一つの語として結合しなければならない必然性が存しないことから、「と」の有無は外観の類否においても重要な要素を占めない。

してみると、両商標はその外観においても類似するというべきである。

最後に両商標の有する観念について述べる。

請求人の「野外科学とKJ法」における、「野外科学」及び「KJ法」には上記のような意味合いが存することから、指定商品との関係を考慮すると全体から「野外において対象を観察し、記録し、まとめあげる科学」と「発言内容をカード化し、類似点によって小グループに分け、さらに大きなグループにまとめあげていき、問題の全体像を浮き彫りにする方法」についての雑誌、新聞であろうとの観念が生ずる。

一方、引用商標「野外科学KJ法」は、全体として一語として把握しなければならない必然性がなく、しかも上記のように請求人により創案された造語に近い語であることから、この商標に接した需要者等は、「野外科学」と「KJ法」に分離し請求人の商標と同様な観念をもって認識するものと容易に推測することができる。

したがって、両商標は、その観念においても類似するというべきである。

上記のように、両商標は、商標の類否判断における主要な要素である称呼、外観及び観念のいずれにおいても相紛らわしく、彼此混同を生じ易い類似する商標である。確かに旧第26類の「雑誌、新聞」の分野においては電話、口頭による取引は、少なく、需要者等は店頭においてこれら商品を直接手にし購入することから、商標間の相違を容易に区別し得るという取引における特徴があることは否定しない。

しかしながら、本件におけるような「と」の有無のみを異にし、しかも全体が造語に近い商標においては、第26類の商品取引におけるこのような経験則はそのまま当てはまらないものと考える。

以上のように両商標は、商標類否の判断における主要な要素である称呼、外観及び観念において彼此混同を生ずるほどに類似していることから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、その登録は本来認められるべきではなく、無効とされるべきものである。

(3) さらにその商標採択の過程において、請求人の商標の存在を認識していたであろうことは、両商標が造語に近いものであることから想像に難くない。

それにもかかわらずその採択を決めたことは、商標審査における万が一の過誤登録をねらい出願したものと思われる。他人の登録商標の存在を知りながら、それに僅かな変更を加え登録を受けることは、商標使用者の業務上の信用を保護し、かつ需要者の利益を保護することを目的とする商標法が到底許すところではない。

本件商標「野外科学KJ法」に接した需要者等は、他人である請求人と経済的もしくは組織的に何らかの関連のある者の業務に係る商品であると誤認し、需要者が商品の出所について混同することは容易に想像することができることから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当するものである。

(4) 以上に詳述したように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第11号及び同第15号に該当するものであり、その登録は無効とされるべきものである。

2. 答弁に対する弁駁

(1) 請求人は、他人の長年の研究の成果をその者の同意を得ることなく、何らの関係を有しないものが登録を受けることは穏当ではないと述べているのであり、この点についての明確な反論が為されていない。他人の創案に係る商標が存在するのを知りながら、その登録を受け、さらにその後にその買い取り、もしくは使用料を要求するが如きことは、いわゆる剽窃行為であり(甲第9号証)であり、かかる行為は社会の一般的道徳観念に反し、法が到底容認するものではない。被請求人は、その出願の時点においては請求人の登録商標が存在していなかったことから、請求人の商標の存在を知らなかったと主張するであろう。

しかしながら、その出願の存在を知っていたことは甲第10号証から明らかである。

甲第10号証は、被請求人の代理人である弁理士三木晃が被請求人の依頼により作成した平成4年3月16日付の調査報告書である。その第2頁に、「野外科学とKJ法」と「野外科学KJ法」の関係が述べられている。

すなわち、「商標「野外科学とKJ法」と商標「野外科学KJ法」は、その相違が「と」の有無であるから、類似すると判断される可能性がある。

したがって、商標「野外科学とKJ法」の出願日は、先ですので、これが登録され、商標「野外科学KJ法」の出願は拒絶される可能性があります。」と記載されている。

この事実から、被請求人自己の商標「野外科学KJ法」に類似する他人である請求人の先願商標の存在を知っていたことは明らかである。

商標法においては、拒絶査定の確定した出願にはいわゆる先願の地位が認められないことから、類似する先願商標が存在してもあえてそれを出願することがあることは否定しないが、本件商標のように特殊な造語からなるものにおいては、万が一の過誤登録をねらい出願したものと推測し得るものである。

だからこそ、その類似する商標が登録されたことを奇貨とし、請求人にその買い取り、使用権の設定等を求めているのである(甲第11号証)。

甲第11号証は、被請求人から請求人の顧問弁護士である湧川清に宛てた1994年(平成6年)10月25日付けのファクシミリの写しである。その第3項に次のような記述がある。

「本件商標権については、次の2条件のどちらかをご選択下さい。

(イ)商標権10年間100万円使用料をお支払いいただくか、買い取りの場合は300万円(1件)にしたい。…」

上記のように自己の商標が他人の商標に類似することを知りながらその出願をし、その登録が認められた後にその買い取りもしくは使用料を要求するが如き行為は「社会の一般的道徳観念に反する」ものというべきである。かかる「社会の一般的道徳観念に反する」行為が、商標法第4条第1項第7号に該当するとしないならば、この種商標の登録は野放しとなるであろう。

そこで特許庁における商標審査においても、剽窃的にされた出願は社会の一般的道徳観念に反するとされているのである(甲第12号証)。

以上のように、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものである。

(2) 本件商標における「野外科学」及び「KJ法」のように造語である場合には「と」の有無は問題とされずに需要者等に認識されるであろう。

さらに、「野外科学KJ法」のように長い構成よりなるものを需要者等が記憶する場合には、それをどこかで区切り2語以上に分割した方が記憶し易いことから、「野外科学」と「KJ法」に分離して記憶するだろうことは容易に想像することができる。

そして、それを思い出す場合も「野外科学KJ法」と一語にして思いだすよりも、「野外科学とKJ法」とそれぞれの構成要素を「と」を仲立として思い出すのが自然と考える。

このように、商標についての取引における事情等を考慮すると、本件商標と引用商標は、類似するものであり、その登録は商標法第4条第1項第11号に該当するものである。

(3) 最後に、商標法第4条第1項第15号について述べる。

本件商標における「野外科学」及び「KJ法」は文化人類学者としての請求人の創案に係るものであり、その著作及び請求人が会長を務めるKJ法学会の刊行物等において広く使用されている。

請求人は、「野外科学」及び「KJ法」についての創案者であると同時にその普及に長年努めてきたことから、「野外科学」及び「KJ法」について関心を持つ者には広く知られており、本件商標に接した需要者等が、請求人と経済的もしくは組織的に何等かの関連がある者の業孫に係る商品であると誤認し、商品の需要者が商品の出所について混同するであろうことは容易に想像することができる。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

(4) 以上に述べたように本件商標は商標法第4条第1項第7号、同第11号及び同第15号に該当し無効とされるべきものである。

Ⅱ. 答弁の理由等

被請求人は、本件請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、次の趣旨の答弁をすると共に証拠方法として乙第1号証~乙第2号証を提出している。

(1) 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するかについて

本件商標「野外科学KJ法」自体、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当するか。

公の秩序とは、国家社会の一般的利益、善良の風俗とは社会の一般的道徳観念を意味するが、商標法上、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とは、いかなる商標か。

確立した商標審査基準によれば、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標とは、その構成自体がきょう激、卑わいな文字、図形である場合および商標の構成自体がそうでなくとも指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、または社会の一段的道徳観念に反するような場合、他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、特定の国もしくはその国民を侮辱する商標または一般に国際信義に反する商標である。本件商標「野外科学KJ法」は、この商標審査基準に照らせば、その構成自体がきよう激、卑わいな文字、図形ではなく、他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、特定の国もしくはその国民を侮辱する商標または一般に国際信義に反する商標ではないことは明らかである。

また、本件商標「野外科学KJ法」を指定商品について使用することが、社会公共の利益に反し、または社会の一般的道徳観念に反しないことは、請求人の主張事実が社会公共の利益または社会の一般的道徳観念に該当しないことから、明らかである。

次に、請求人の同意を得ることなく、何等の関係を有しない者が登録を受けることは、商標法第4条第1項第7号に該当するか。

請求人は、主張根拠として、甲第5号証、第2頁を揚げ、「川喜田二郎」以外の者が登録を受けることは商標法第4条第1項第7号に該当するものと審査において扱われていることを主張する。

甲第5号証、第2頁によれば、「川喜田二郎」の承諾を得ていないから、商標法第4条第1項第7号に該当し、承諾を得ていれば、商標法第4条第1項第7号に該当しないことになる。

かかる取り扱い、すなわち個人の承諾の有無によって、公の秩序又は善良の風俗を害したり、しなかったりすることが妥当か。

そもそも、公の秩序又は善良の風俗は、個人法益ではなく、国家法益又は社会法益を保護法益とし、契約当事者の合意があっても、公の秩序又は善良の風俗に反する内容をもつ法律行為は無効とされる(民法第90条、第132条、第708条)。

すなわち、公の秩序又は善良の風俗は、個人法益の処分を制限するものである。それゆえ、国家法益又は社会法益は、個人が放棄、承諾等の処分をできないし、逆に個人が処分できるものは、国家法益又は社会法益ではない。

このことは、氏名は人格権の内容をなし、人格権が個人法益であるから、その処分は個人に委ねられているのに対して(商標法第4条第1項第8号かっこ書)、公の秩序又は善良の風俗は、国家法益又は社会法益であるから、当然に処分が許されていないことからも明らかである(商標法第4条第1項第7号にかっこ書なし)。

したがって、請求人の承諾の有無によって、商標法第4条第1項第7号の該当の有無を判断するのは妥当ではない。

以上からして、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

(2) 引用商標と本件商標とを指定商品について比較すると、両者は、いずれも旧第26類「新聞、雑誌」であり、同一である。本件商標と引用商標とを商標について比較すると、両者は、「野外科学KJ法」と「野外科学とKJ法」であって、その構成要素が全く異なる。

したがって、本件商標と引用商標において、商標は同一ではない。

それでは、両者は、類似するか。まず、両者は外観において類似するか。

「と」の有無は外観の類否において、重要な要素を占めるから、「と」の前後に語があると、「と」は、「及び」と同じように、対等の関係にある語と語とを結び付ける働きをし、同格のものを二つ以上並べるときに使われる。そして、語と語とが「と」の前後に二つ並べられているときは、前後の二つの語は、別個独立の二つの概念をあらわす。引用商標においては、「と」があるので、「野外科学」、「KJ法」の二つの語として把握され、「KJ法」という別個独立の二つの概念である「野外科学」、「KJ法」をあらわす。

これに対して、「と」がなく、語と語とが単に並べられているときは、一つの語として把握され、一つの概念をあらわす。本件商標においては、「と」がないので、「野外科学KJ法」の一つの語として把握され、「野外科学KJ法」という一つの概念をあらわす。これは、「AとB」と「AB」とが、外観において全く異なり、類似しないことからも明らかであるから、両者は、外観において類似しない。

次に、両者は称呼において類似するか。

既述したように、語と語とが「と」の前後に二つ並べられているときは、前後の二つの語は、別個独立の二つの概念をあらわす。それゆえ、称呼において「ト」が強調される。

本件商標においては、「ヤガイカガク」と一気に称呼された後、若干のポーズをおいて「ト」と強調されて称呼され、若干のポーズをおいて「ケージェーホウ」と一気に称呼されるのが通常であるからである。既述したように「と」がなく、語と語とが単に並べられているときは、一つの語として把握され、一つの概念をあらわす。

したがって、本件商標においては、「ヤガイカガクケージェーホウ」と一気、一連に称呼されるのが通常であるからである。このように、その中間における「ト」音の有無が称呼全体に及ぼす影響は僅かなものではなく、きわめて大きいものである。これは、「AとB」と「AB」とが、称呼において全く異なり、類似しないことからも明らかであるから、両者は、称呼においても類似しない。

次に、両者は観念において類似するか。

商標の観念は、商標自体から判断すべきであって、指定商品とは、無関係である。「野外科学」、「KJ法」が請求人が主張するような意味合いが存し、観念が生じたとしても、既述したように語と語とが「と」の前後に二つ並べられているときは、前後の二つの語は、別個独立の二つの概念をあらわすから、「野外科学」自体、「KJ法」自体以上の観念が生ずるものではない。このことは、「AとB」が「AB」にならないことからも明らかである。また、「AとB」と「AB」とが観念において全く異なり、類似しないことからも明らかである。「と」がなく、語と語とが単に並べられているときは、一つの語として把握され、一つの概念をあらわすから、「野外科学KJ法」は全体として一語として把握されるのが必然であるからである。また、需要者等が「野外科学KJ法」を「野外科学」と「KJ法」とに分解することは、容易に推測することができないからである。このことは、「AB」を「A」と「B」に分離することがないことからも明らかである。

なお、「野外科学KJ法」の「野外科学」からは、「野外の科学」、「野外における科学」「野外に関する科学」の観念が生じたとしても、「野外外科学KJ法」の「KJ法」からは、「何の略か」と需要者が想起する程度であるから、「野外科学KJ法」自体からは、観念は生じない。

したがって、両者は、観念においても類似しない。

以上からして、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

(3) 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号、すなわち他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標に該当する、と主張するが、全く理由のないものである。請求人は、その商標採択の過程において、請求人の商標の存在を認識していたであろうことは、両商標が造語に近いものであることから想像に難くない。それにもかかわらずその採択を決めたことは、商標審査における万が一の過誤登録をねらい出願したものと思われると主張するが、単なる推測であって、取るに足らないし、商標法第4条第1項第15号に無関係である。また、請求人は、他人の登録商標の存在を知りながら、それに僅かな変更を加え登録を受けることは、商標使用者の業務上の信用を保護し、かつ需要者の利益を保護することを目的とする商標法が到底許すところではない、と主張するが、他人の登録商標の存在を知らないし(本件商標の出願日は、平成3年4月26日、引用商標の設定登録日は、平成5年5月31日である。)、それに僅かな変更を加えたものではない。

さらに、請求人は、被請求人の商標「野外科学KJ法」に接した需要者等は、他人である請求人と経済的もしくは組織的に何らかの関連のある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の需要者が商品の出所について混同することは容易に想像することができることから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当するものである、と主張するが、到底、是認できるものではない。商標法第4条第1項第15号は、第10号から前号までに掲げるものを除くとのかっこ書きから明らかなように、例えば、引用商標と同一または類似する商標であって、引用商標の指定商品と非類似の商品を指定商品とする場合、登録を拒絶するものである。本件商標は、既述したように、引用商標と同一または類似するものでなく、また、指定商品は、両者は、いずれも旧第26類「新聞、雑誌」であり、同一である。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

(4) 以上述べた通り、請求人の主張は、そのいずれをみても全く理由のないことが極めて明らかであるから、本件商標が、商標法第4条第1項第7号、同第11号及び同第15号により、その登録を無効とされるような要因を全く有しないものである。

Ⅲ. 判断

1. 本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するか否かについて判断する。

本件商標および引用商標の構成は、前記のとおりであって、共に「野外科学」及び「KJ法」の文字を構成要素とするものである。

ところで、請求人の提出に係る甲第5号証から甲第8号証によれば、「野外科学」及び「KJ法」の文字(語)は、請求人である文化人類学者川喜田二郎(理学博士、東京工業大学名誉教授)の創案にかかる文字(語)であって、請求人は、伝統的な学問研究の方法に加え、問題解決の方法として野外での観察を通じてこれを科学的に分析していく方法である「野外科学」という考え方を提唱してきたこと及び「KJ法」が問題解決方法の一つであり、請求人の頭文字をとり命名したことが認められる。

しかしながら、両語は一般によく知られているものではなく、本件商標と引用商標のように2語を結合した場合においては、いっそう全体としての具体的な意味合を直ちに看取させるものとはいえないから、両商標に接する取引者、需要者は、単に当該2語を並列的に表記したものとして認識、理解するものといえる。そして、引用商標においては、接続詞である「と」の文字の具有する印象ないし、記銘力は、その前後に配された文字と比較し弱いものといわざるを得ない。

してみると、両商標は、特定の意味合いを看取させない造語よりなるものであって、中間における「と」の文字の有無に差異を有するとしても、該「と」の文字は、上記のとおり記銘力が弱く、この差異が称呼全体に及ぼす影響は小さいものというべきであるから、両商標は、称呼上相紛れるおそれのある類似の商標といわざるを得ない。

また、外観については、両商標は、構成文字中7文字を同じくし、中間における「と」の文字の有無に差異があるとしても、全体として、両者の外観を対比したときは、類似した印象を与えるものといい得るもので、時と所を異にして観察したときには、取引者、需要者をして、本件商標から引用商標を連想し、又は、思い違えることも決して少なくないものと解される程度に近似した類似の商標とみるのが相当である。

そうとすれば、本件商標と引用商標とは、称呼および外観において類似する商標と認められるものであり、また、本件商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品とは、同一のものである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。

よって、結論のとおり審決する。

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